長期修繕計画

マンションの長期修繕計画表の作成者は?

2018年2月15日

 

近年、新築の分譲マンションにおいては、当たり前に長期修繕計画が用意されているのだが、その多くは分譲会社から指名された管理会社がそれを作成している。

昔は、マンション販売時において、長期修繕計画を用意するという考え方はなかった。

マンションを売りやすくするために初回の修繕積立金が低く設定されているため、その後、修繕積立金が不足する事態を招き、大規模修繕が20年を過ぎても実施できないというマンションが多く存在した。

今でも当初の修繕積立金は低く設定されているのだが、これらはマンションデべロッパーの販売上の都合に過ぎない。

前述の問題が社会から指摘されるようになり、その解決策としてマンション販売時に長期修繕計画と一緒に修繕積立金の改定プラン(値上げプラン)が用意されるようになった。

マンション購入時に支払う修繕積立基金(一時金)は、今では慣習化されているのだが、初回の低い修繕積立金を補填するために徴収されている。当初の目的はそうではなかったのだが…(詳しくはこちら☟)

▶ 修繕積立金基金の間違った理解を正す!



長期修繕計画表の作成者は?

これまで長期修繕計画の大半はそのマンションの管理会社が作成してきた。なぜなら、管理委託契約書にその旨が記されていたからだ。過去形になっているのは、以下の理由がある。

国土交通省の行政指導の指針となる「マンション標準管理委託契約書」、多くの管理会社は、この雛型に準じて契約書を作成しているのだが、この標準管理委託契約書の中で、管理会社が行う業務として「長期修繕計画の作成」が明記されていた。

改定前:マンション標準管理委託契約書/別表第1(事務管理業務)
(該当箇所抜粋)

本マンション(専有部分を除く。以下同じ。)の維持又は修繕に関する企画又は実施の調整

一 乙は、甲の大規模修繕の修繕周期、実施予定時期、工事概算費用、収支予想等を記載した長期修繕計画案を作成し、甲に提出する。当該長期修繕計画案は、○年ごとに見直し、甲に提出するものとする。

その後、この標準管理委託契約書が以下の内容に改定された。これは2010年5月1日以降の契約から適用されている。

改定後:マンション標準管理委託契約書/別表第1(事務管理業務)
(該当箇所抜粋)

本マンション(専有部分を除く。以下同じ。)の維持又は修繕に関する企画又は実施の調整

一 乙は、甲の長期修繕計画の見直しのため、管理事務を実施する上で把握した本マンションの劣化等の状況に基づき、当該計画の修繕工事の内容、実施予定時期、工事の概算費用等に、改善の必要があると判断した場合には、書面をもって甲に助言する。

二 長期修繕計画案の作成業務及び建物・設備の劣化状況などを把握するための調査・診断を実施し、その結果に基づき行う当該計画の見直し業務を実施する場合は、本契約とは別個の契約とする

この改定では、青字部分「長期修繕計画案の作成業務は、本契約とは別個の契約とする」、この記述に変更されている。

管理会社によっては、従来通り長期修繕計画の作成業務を仕様に入れているケースが考えられるが、管理会社が作成すべきものではなくなった、そこに注意が必要になるだろう。

変更になった経緯は、様々なトラブルが背景としてある。本来長期修繕計画というのは、当事者である管理組合が作成すべきものである。また、その意思に基づいて第三者に作成を依頼すべきことでもある。

管理会社が作成するにあたり、修繕周期と工事項目の策定までは許容できるとして、それぞれの修繕工事費用の算定においては、利益相反関係にある管理会社が算定すべきものではないと思う。

それに、管理会社の裁量などによってずいぶん内容に相違がある。

国土交通省において、長期修繕計画の策定に関するガイドラインが作成されているのだが、これがひとつの基準になるだろう。

長期修繕計画作成ガイドライン/国土交通省

作り手によって大きく変わる、それが長期修繕計画だと思う。修繕周期や工事費用の捉え方も人それぞれ異なるし、工事項目の有無、計画期間などもそれぞれ異なる。

計画期間は30年が一般的なのだが、個人的には築年数が浅いマンションの場合、40年は必要だと考える。(詳しくはこちら☟)

▶ マンションの長期修繕計画は40年は必要!

長期修繕計画は、設計事務所、マンション管理士に委託すれば作成してもらえる。当然費用は掛かる。管理会社の有償プラン、仮に無償であったとしても、前述の利益相反関係には注意が必要になるだろう。長期修繕計画は管理会社の売上表ではない。(詳しくはこちら☟)

▶ 分譲マンション|長期修繕計画表は管理会社の売上表ではない!

国土交通大臣指定の公益社団法人マンション管理センターにおいて、長期修繕計画作成・修繕積立金算出サービスを行っている。(詳しくはこちら☟)

▶ 公益社団法人マンション管理センター

このサービスの料金は、1棟2万円とかなり安価である。民間に委託すれば、数十万円は掛かるだろう。私が管理会社時代にこのサービスを利用した経験があるのだが、率直な意見を言えば、実勢価格とは思えないほどの割高な工事費用が計上されている。

実際に利用された方ならこの意味が理解できると思うが、余裕をもった予算と割り切れるのなら利用価値はあるだろう。

個人的には、中立的な立場、そして修繕に関する知識と経験が豊富な作成者に委託したいと思う。当然費用面もある。そう考えると腕利きのマンション管理士事務所、設計事務所がそれに該当するのではないだろうか。だが、設計事務所は正直費用は高いし、実際に現場経験が少ない事務所が多い。これはマンション管理士事務所にも言えることでもある。(参考記事はこちら☟)

マンション大規模修繕|こんな設計監理方式はいらない!

長期修繕計画は誰が作成するのか、それは管理組合であって、どのような長期修繕計画にすべきか考えることが重要だと思う。それを自分たちで作成できない場合は、第三者に委託する。この流れが本来あるべき姿ではないだろうか。

 


 

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 プロフィール

くるみ

くるみ

著者:kurumi

マンションデべロッパー、デべ系管理会社、建設会社勤務を経て、2004年に管理会社設立。
2017年に業界を離れ、今はフリーランスとして活動しています。
元業界人がマンション管理についてしがらみ抜きでガチで語っているので、是非読んでみてください。

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