マンションに必要なもの、そのひとつに長期修繕計画というものがあります。国土交通省が5年毎に実施しているマンション総合調査(30年度)の結果によると、長期修繕計画を作成している管理組合の割合は90.9%となっています。
今やほとんどのマンションで作成されている長期修繕計画ですが、誰が、何を基準に作成しているのか、ここがとても重要です。
もしこの長期修繕計画が管理会社の都合で作成されているとしたら、皆さんはどのように感じるでしょう?
実は長期修繕計画の多くは管理会社の都合で作成されています。そこに問題が潜んでいます。今回この問題について語らせていただきます。
長期修繕計画の作成者は誰?
長期修繕計画は作成して終わりではありません。その後に適宜見直す必要があります。国土交通省は5年毎の見直しを推奨していますが、長期的な計画となるため、その間に物価の変動などの市場の変化や公租公課(消費税など)の改定が生じますので、これらの差異を埋める目的で見直しが必要になります。
また、外壁塗装や鉄部塗装などの劣化具合も立地環境によって変わってきますし、マンションの設備なんかも利用頻度で修繕時期というのは前後しますので、定期的に見直しを行う必要があります。
当初の長期修繕計画というのは、分譲会社が作成しますが、実際には子会社にあたる管理会社(子会社を持たない場合は指定の管理会社)が作成しています。その後の見直しプランもまた、管理会社が中心となって作成されているのが実情ではないでしょうか。
長期修繕計画に用いられる工事費
マンション管理会社は修繕工事の専門家ではありません。しかしながら長期修繕計画に用いられる工事費は、管理会社の裁量で算定されています。そこに注意を要します。
この工事費は、修繕積立金に大きく影響しますので適当では困ります。本来なら実勢価格、相場価格を用いる必要がありますが、状況によっては管理会社都合の金額、つまり管理会社の利益が上乗せされた価格設定がなされていたりもします。
これまで多くの長期修繕計画書を見てきましたが、工事仕様が不明で工事費の算定根拠が見当たらない、いい加減な工事費も中には見受けられます。どう考えても足りないものまたは過剰なもの、何を根拠に算定しているのか不可解な工事費になっていたりもします。
そんな工事費が用いられているとすれば、長期修繕計画の作成意義は薄れますし、この計画を根拠に修繕積立金の見直しがなされるわけですから、修繕積立金の改定時に揉める要因になります。
これらは、私の管理会社時代に経験を通じて知り得たことです。
管理会社の売上表になっている!
作成された長期修繕計画が管理会社の売上を見込んだ計画、すんなり工事を受注するための計画であるとすれば、それはもはや管理会社の売上表にしか映りません。
管理会社が作成するとそのようなことが起こり得ます。
特に大手管理会社の長期修繕計画を拝見すると工事単価、そして価格が相場よりもずいぶん高く設定されています。大規模修繕の専門業者が見ればきっと驚く金額に映るでしょう。
このような適正とは思えない工事費が組み込まれていたりもします。管理会社側からすれば適正価格なのでしょうが、第三者がそれをみてどう評価するか、そこが重要です。適正かどうかの判断は自ら作成した管理会社が行うべきものではありません。
それとは逆に、工事単価がやたら低すぎるケースが見受けられます。この金額ではどこの業者も受注できない、そんな工事費が計上されています。
管理会社はデータの寄せ集めで長期修繕計画を作成する傾向にあります。中には間違ったデータが存在したりします。なので、工事単価、数量、工事費を鵜呑みにしてはいけません。再チェックが必要です。
長期修繕計画は、修繕積立金を見直す際に用いたり、一時金を徴収する際の根拠資料になりますので、適正なものでなければなりません。
長期修繕計画の作成者は誰なのか、何を基準に工事費が算定されているのか、この2つが適正な長期修繕計画作成のポイントになると思います。
そうはいっても、管理組合自身で作成するのは大変ですよね。そこで大規模修繕工事に精通している一級建築士事務所などに作成を依頼することになりますが、個人的には管理会社よりも第三者に作成してもらう方が前述の件を踏まえると得策のように思えます。