マンション管理業界、建設業界にいた私だが、これまでマンション大規模修繕工事の裏側を見てきた。管理会社、施工会社、設計事務所、業者間の癒着・談合の多さ、慣れ合いがそこにはあった。
その結果が割高工事である。
この割高工事の中身を知れば、手抜き工事の生まれる理由が分かるだろう。今回はこれについて語る。
割高工事はこうして生まれる
割高工事の割高とはどういうことなのか。まずそこから話をしよう。
マンション大規模修繕の施工を担うのが建設会社だ。この建設会社にも新築をメインに手掛けるゼネコン、地元建設会社、そして大規模修繕を専業としている建設会社、大きくこの3つが代表と言える。
どの建設会社も下請け業者に業務の大半を丸投げする。そしてこの下請け業者は更に一人親方などの個人事業主、小規模の業者に個別に業務を発注している。これらを孫請けともいうが、手が足りない場合、更にそこから個人の職人たちに仕事を依頼する。
これが建設業界の発注の大方の仕組みだ。ひとつの工事に何社も介在することにより割高な工事費が形成されるのだが、管理会社が元請者の場合、更に建設会社の上に管理会社が加わることになる。
この多段式の発注形態が大規模修繕工事費を割高にしているのだ。
手抜き工事はこうして生まれる
大規模修繕工事に使われる材料には、塗料材、シーリング材、防水シート材、タイル材など色んな種類がある。
屋上の防水工法、外壁塗料材にも色んな種類がある。工法や材料の種類によって材料費は大きく異なる。
使われる材料は、工事仕様書によって決められる。この工事仕様書を作成しているのは、設計コンサルタント(設計事務所)になるが、施工会社が代行して作成するケースが多く見受けられる。
私は設計コンサルタントの方で、工事仕様書を自ら作成される方を正直みたことがない。おそらく、多くの設計コンサルタントは、一般的な雛型を参考にしているか、施工会社に依頼しているかのいずれかであろう。
マンションは全て同じではない。現状の仕様が何なのかによって、使用する材料、工法も異なるのだ。医者と同じで症状を的確に把握することが手術を成功へと導く。建物もこの理論と全く同じだ。
その医者の立場に当たるのが設計コンサルタントなのだが、実際には現場のことをあまり知らない。というか知らな過ぎる。
多くの設計事務所は新築住宅の設計が専門だ。最近その新築住宅も年々減り続けている。今後も同じ状況が続く。だから大規模修繕などのリニューアル事業への参入が増えている。
昔は軽視されたリニューアル事業への転換、歴史も浅いから当然に経験も浅い。施工後に劣化していくマンションを気にする人を見たことがない。多くが大規模修繕工事の時だけの業務で終わっている。
このように書くと私は違う!と怒鳴り声が聞こえてきそうだが、本当に工事の詳細を理解している人は皆無に等しい。施工会社が一番それを知っていると思う。
ここで問題なのが、違う材料を使用しても、違う工法で施工しても見抜けないということだ。
私が知る限り、設計コンサルタントはあまり工事の現場には来ない。監理という仕事を理解していない。これは新築にも言えることだ。
だから、そういう現場は必ず工事後に手直しが多い。これが監理が十分できていない証拠だ。
現場チェックが甘いと手抜き工事が生まれる。叩かれた工事費は粗悪な工事を生むのだ。表面の仕上がりは良く見えても、時の経過がこの手抜きを暴くだろうが、こうなっては困るのだ。
見えない物の中味、これを監理するのが設計コンサルタントとしての使命だと思う。それをもし違うというのなら、誰が現場チェックを行うのだ。ここが設計監理を発注する際のポイントとなろう。
施工会社と管理組合は利益相反の関係にある。それを代理する立場が設計コンサルタントであり、管理会社である。だが実情はこの業者間の癒着、慣れ合いの場と化している。この慣れ合いが手抜き工事の温床になろう。だから癒着は絶対に断ち切ることだ。
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