大規模修繕

マンション大規模修繕|実数精算の注意点!

2021年3月21日

 

マンションの大規模修繕の見積もり段階で「実数精算」という言葉を見聞きしますが、この精算方法については、特に注意が必要です。今回これをテーマに取り上げます。

 

実数精算とは

大規模修繕の工事費用を算定するために深く関わってくるのが数量です。この数量は、竣工図書、過去の実績値、現地調査などによって算定され、施工会社の見積書に反映されますが、工事項目の中には数量が不確定なものがあり、この場合、「実数精算」という取り扱いがなされるケースが多いです。

前述の不確定なものに該当するのが、タイルの張替え、躯体工事になります。

タイルの浮き、外壁のひび割れなどの調査は、実際に足場を架けて全面的かつ綿密に調査しないと正確な数量ははじき出せません。なので、事前に行う簡易調査ではそれを正確に把握することはできません。

この簡易調査は、地上2m程度が打診調査の範囲となり、調査範囲と全体の比率によって劣化個所の全体数量を予測する方法が一般的に用いられています。しかしながら、実情として誤差が大きく生じるケースが多々あります。

また、特定部位によるサンプリング調査などによって全体の数量を予測する方法がありますが、こちらも同じことが言えます。

なので、見積もり段階では、暫定的に想定数量が用いられ、工事開始後、足場を架けた段階で行われる全体的かつ綿密な調査によって、実際の劣化数量を確定させる方法、それが「実数精算」であり、近年では慣習化されています。

施工会社の中には、数量がオーバーした場合でも追加の工事費用は発生しない、「責任数量」を用いるケースがありますが、これを採用している施工会社は少ないのが実情です。逆に数量が少ない場合は、工事費用は減額されません。



実数精算の注意点

管理組合として注意すべきことは、この実数精算によって「追加費用が発生しうる」という点です。

想定数量と同等もしくは少なければ問題は生じませんが、それが増えると追加費用が発生するため、事前に予備費を確保しておく必要があります。近年は、この予備費を確保するよう大規模修繕の設計監理を担うコンサルタントから助言されるケースが多いです。

なので、この実数精算が用いられるケースでは、理事会、修繕委員会の関係者の方は、その意味を十分理解した上で、予備費の確保や後の出費で揉めないよう、事前に組合員に対して説明を行う必要があります。

マンションによっては、想定数量を大幅に超えるケースが見受けられます。私の知人が住んでいるマンションでは、この追加費用の資金確保をめぐり、工事が一時中断するといったことが起きていますし、予備費が確保されていなければ、別に予定されていた工事を中止してその工事費用に振り替えたり、状況によっては借入を行わなくてはなりません。

見積もりに用いられる実数精算というのは、実は怖さを併せ持ちます。

工事関係者側にとってみれば、実数精算は後で増減の調整ができるから大きな損失に至りませんが、管理組合側にしてみれば、増は「痛い出費」となります。実情として増となるケースがあるため、予備費の確保は必須です。

地震の影響、過去に起きた事象などのヒアリング、工事関係者側の経験観測、現地確認の在り方が想定数量の算定に深く関わってきますが、その想定数量の算定の在り方がこれからの課題であり、そこで用いられる実数精算は不確定要素が高いことを、理事会、修繕委員会、そして組合員の皆さんは前もって知っておくべきです。

今回の記事に関連し、東洋大学理工学部建築学科秋山研究室と公益財団法人マンション管理センターが実施した下記リンクのアンケート調査結果は、実情を知る上でとても参考になると思います。一度読んでみてください。

 

マンションの大規模修繕工事における工事中の変動要素の取り扱いに関する調査結果

 

 


 

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 プロフィール

くるみ

くるみ

著者:kurumi

マンションデべロッパー、デべ系管理会社、建設会社勤務を経て、2004年に管理会社設立。
2017年に業界を離れ、今はフリーランスとして活動しています。
元業界人がマンション管理についてしがらみ抜きでガチで語っているので、是非読んでみてください。

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