本題に入る前に、大規模修繕の工事金額の目安、大規模修繕の最近の動向について語らせていただきます。
大規模修繕の工事金額の目安
マンション大規模修繕の工事金額は、数千万円から数億円と莫大な費用が掛かります。戸当りに換算すると100万円程度、これがひとつの目安になるでしょう。(詳しくはこちら👇)
▶ 令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査/国土交通省HPより
この目安の単価は、足場設置工事、下地補修工事、外壁塗装工事、鉄部塗装工事、屋上防水工事などが対象になります。なので、アルミサッシの更新工事、給排水管の更生・更新工事、エレベーターなどの設備の更新工事は対象外となります。
一般的に小規模のマンションでは前述の単価は高くなります。逆に大規模のマンションでは低くなる傾向にあります。
高耐久化について
最近「高耐久化」という言葉をよく耳にしますが、簡単に説明すると、屋上防水、シーリング防水、外壁塗装を行う際に高耐久性の材料を使用し、大規模修繕の工事周期を長くすることを意味します。
この高耐久化は、前述の大規模修繕の長周期化に伴い、生涯コストを減らせることが最大のメリットと言えます。従来の12年周期から高耐久化により18周期に延ばせるとしたら、大規模修繕の実施回数がその分減るのでコストを大幅に抑えることができます。
大規模修繕工事を行う上でネックになるのが足場代です。この足場代は全体工事費の2割程度掛かるため、実施回数を減らすことでコストを大きく減らせます。
デメリットは材料費が高く付くことです。そのときのコストは高く付いても、その先の費用対効果を考察すればデメリットは拭えます。
一部の大手分譲会社では、既に新築マンションにこの高耐久化を採り入れていますが、既設のマンションの大規模修繕工事においても、長周期化の利点が大きいことから今後普及するものと思われます。
資材の高騰には注意
近年、世界情勢の変化により資材が高騰していますが、大規模修繕時に設備改修を行う場合、工事項目によっては既に価格に影響が出ています。(☜ 価格に影響が出ている工事項目として、サッシの更新工事、給排水管の改修工事が挙げられます。参考記事はこちら👇)
それと依頼先の施工会社によって工事金額というのは大きく変わります。複数の施工会社から見積りを取り寄せれば、それを知ることができます。同じ仕様でも金額に大差が生じることは建設業界では当たり前のことです。(参考記事はこちら👇)
見積金額が高いからしっかり工事を行ってもらえるとか、逆に安い場合は手抜き工事が心配など、見積金額だけで判断するのは適切とは言えません。
施工会社がどのようにして工事金額を決めているのか、それを知ることでより適切な判断が行えます。
前振りが長くなりましたが、「マンション大規模修繕における業者側の工事金額はこうして決まる!」の本題に入ります。
まず最初に業者(相手)を知ることが大切!
大規模修繕などのリフォームに携わる業者は大きく3つに分類されます。
▶ 法人化された小規模の工務店
▶ 大規模模修の専業会社、一般的な建設会社
大規模修繕は文字通り、大掛かりな工事になるので一般的なリフォームとは異なります。なので、個人商店とか小規模の工務店が元請けとして受注することはほとんどありません。主に大規模修繕を専門とする専業会社、建設会社が受注しているのが一般的です。
前述の個人商店と工務店は、大規模修繕の下請け業者として施工にあたります。また、小規模な工事の場合、元請けとして受注することは考えられます。
工事金額の算定方法について
工事金額の算定方法について、小さなリフォームのケースで考えてみると分かりやすいです。また、算定方法は理解し易いように簡潔にしています。
まずは個人商店の工事金額の算定方法から説明します。
個人商店の工事金額の算定
個人商店では職人さんが直接工事に携わるので、その人件費と工事に用いる材料費、それと諸経費(ガソリン代、駐車場代、通信費など)の3つを加えたものが工事金額(見積金額)になります。個人商店の中には一人親方も含まれます。
職人の日当が1.7万円と仮定し、使う材料費が1万円、諸経費が3千円の場合、合計で3万円になります。これが個人商店の工事金額(見積金額)になります。
次に工務店の工事金額の算定方法を見てみましょう。
工務店の工事金額の算定
個人商店と違うのは法人化されている点です。事務員さんの給料などの会社経費がこれに加わります。
前述の個人商店の3万円に工務店(自社)の会社経費が加わります。この会社経費を15%と仮定し計上すると3.5万円(3万円÷85%)になります。これが工務店の工事金額(見積金額)になります。
個人商店と比べて5千円高いというが分かります。
次に専業会社や建設会社の場合を見てみましょう。
この2つの会社に共通して言えることは、工事のほとんどを下請け業者に発注しているという点です。メリットして、職人を直接雇用するよりも下請けの業者さんに発注した方がコストを低く抑えることができます。
下請けの業者さんは、個人商店か工務店のいずれかになります。どちらと取引するかは専業会社と建設会社とでは考え方が異なります。
一般的に専業会社は個人商店と取引きし、建設会社は工務店などの法人組織と取引きします。
専業会社の工事金額の算定
前述の3万円(個人商店の工事金額=原価)に専業会社(自社)の会社経費が加わります。この会社経費を25%と仮定し計算すると4万円(3万円÷75%)になります。これが専業会社の工事金額(見積金額)になります。
上記の会社経費の中には専属営業マンの人件費、広告費、営業活動費などが含まれます。
建設会社の工事金額の算定
前述の3.5万円(工務店の工事金額=原価)に建設会社(自社)の会社経費が加わります。この会社経費を30%と仮定し計算すると5万円(3.5万円÷70%)になります。これが建設会社の工事金額(見積金額)になります。
建設会社は重層下請構造になっているため、下請け業者さんが複数介在するので原価は高く設定されます。建設会社からしてみればそれが当たり前なんですよね。
小さなリフォームを例にして工事金額を算定してみましたが、結果を纏めるとこのようになります。
▶ 工務店・・・・3.5万円
▶ 専業会社(下請けが個人商店)・・・4万円
▶ 建設会社(下請けが工務店)・・・・5万円
請け手によって工事金額が異なることが理解できたと思います。これは小さなリフォームの例ですが、大規模修繕の場合も算定の考え方は同じです。
専業会社と建設会社の金額差は上記の例では小さく感じますが、これが数千万円、億単位になると大差を生むことになります。
色んな業者さんと取引きを行う上で相手を知ることは大切です。相手をより知るためには他者との比較は欠かせません。更に仕組みまで理解すると交渉が上手になります。今回の記事が皆さんにとって少しでも参考になれば幸いです。