管理組合の役員は「理事」と「監事」の2つに大別されますが、理事と監事の役割というのは、全く異なります。
理事の役割は、理事会という組織の一員として、管理組合の業務を執行する立場にあります。それに対し、監事の役割は、管理組合の業務の執行状況、つまり理事会の業務が適切に執行されているのかをチェックする立場にあります。そしてもうひとつ、管理組合の財産をチェックするという役割を担います。
前述のチェック、これが「監査」と呼ばれるもので、監事は、当期の監査結果を通常総会(定期総会)で報告しなければなりません。
管理組合の監事に就任したけど、具体的にどのようなことをすればよいのか分からない方がほとんどだと思います。そこで今回、監事の職務内容とか役割について、実務を交えながらご紹介します。
監事の職務内容について
国土交通省が作成している「マンション標準管理規約」、この規約の第41条に監事の職務内容が記されています。
マンション標準管理規約第41条(監事)
第1項(総会での監査報告)
監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況を監査し、その結果を総会に報告しなければならない。
第2項(業務及び財産の調査)
監事は、いつでも、理事及び第38条第1項第二号に規定する職員に対して業務の報告を求め、又は業務及び財産の状況の調査をすることができる。
第3項(臨時総会の招集権)
監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるときは、臨時総会を招集することができる。
第4項(理事会への意見陳述)
監事は、理事会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。
第5項(理事会への報告義務)
監事は、理事が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令、規約、使用細則等、総会の決議若しくは理事会の決議に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を理事会に報告しなければならない。
第6項(理事会招集の請求権)
監事は、前項に規定する場合において、必要があると認めるときは、理事長に対し、理事会の招集を請求することができる。
第7項(理事会の招集権)
前項の規定による請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を理事会の日とする理事会の招集の通知が発せられない場合は、その請求をした監事は、理事会を招集することができる。
<補足>
第2項の第38条第1項第二号に規定する職員とは、理事の退任(解雇)により新たに就任された理事を指します。
なお、管理組合法人においては、区分所有法第50条に監事の役割が記されています。
監事の役割について
監事は、管理組合の業務や財産状況を監督し、その結果を総会に報告することになっています。なお、監事はその立場上理事を兼任できません。
実務において、理事と監事を混同するケースをよく見かけます。例えば、理事会の各議題の採決に監事が加わるといったケースです。監事は、各議題に対して意見を述べることはできても採決に加わることはできませんので、そこに注意が必要です。
監査の内容について
監事が行う監査は、管理組合の「業務監査」「会計監査」、この2つがあります。
業務監査とは、管理組合の業務が適切に行われているかチェックすることである。総会議案の適否をはじめ、管理規約や使用細則、そして総会決議に従い管理組合が運営されているのか、年度当初に事業計画された点検・清掃・修繕工事などが適切に行われているのか、都度開催される理事会に出席して確認したり、議事録や点検や工事に関わる報告書などにより確認する。
実務において、都度開催される理事会が管理規約に則って開催されているのか、この監査があまりなされていません。理事会開催に必要な定足数が不足しているにも関わらず、理事会が開催され、物事が決まるといったケースが見られます。
例えば、理事5名のところ、理事2名の出席で理事会が開催されるケースです。管理規約において、理事会開催の定足数が過半数(このケースでは3名以上)なのに対して、2名では理事会は成立しません。そこにも注意が必要です。
これは規約違反であり、後のトラブルになりかねません。それを是正することも監事の役割と言えます。
総会に上程する議題は、理事会で承認を得なければなりません。この承認の手続きを経ないで管理会社が勝手に議題を決め、そのまま総会に上程するケースが見られます。なので、上程する議題について、理事会で承認されたことをきちんと議事録に残すことが肝要です。
監事になられた方は、管理規約に沿ってきちんと業務が執行されているのか、そこをチェックする必要があるため、管理規約の内容について理解しておかないと監査は務まりません。
実務においては、監事という役職が軽視されている傾向にあります。例えば、役職決めの際に監事の仕事は年1回の監査だけ行うので楽ですよ、なんて管理会社から説明を受けたりもします。
しかしながら、監事の役割というのは、理事長と同様に責任重大な役割を担っています。このように書くとドン引きするかも知れませんが、これが監事の本来あるべき姿です。
会計監査とは、管理組合の財産管理が適切に行われているかチェックすることである。前年度の総会で決議された予算に基づいて適正に執行されているのか、使途不明な支出など不正が行われていないか、管理費等の滞納が生じる場合にその督促などの措置が適正に行われているのか、総会に提出される収支報告書、貸借対照表の素案が適正に作成されているのか、都度開催される理事会に出席して確認したり、議事録や会計資料などにより確認する。
監事によっては、期中に購入した備品について、全て現物を見ながらチェックされる方が中にはいらっしゃいます。チェック方法は監事の裁量に委ねられるますが、皆さんの共有財産になりますので、細かくチェックすることはとても良いことだと思います。
管理費等の滞納措置については、理事会は「管理会社任せ」になりがちです。この他人任せは滞納を助長させることに繋がります。なので、理事会がきちんと滞納状況を把握しておくことはもちろんですが、管理会社のサポートを得ながら適切に回収しているのか、そこに注意を払う必要があります。
監査資料について
監査を行う上で必要になる資料を以下に列挙します。
▶ 前年度の理事会議事録、本年度の理事会議案書・議事録
▶ 管理組合理事長名で発信した書類がある場合はその書類
▶ 収支決算書、事業報告書の素案
▶ 収支予算書、事業計画書の素案
▶ 管理費等及び使用料の額の一覧表
▶ 管理規約及び使用細則
▶ 長期修繕計画書(修繕積立金の改定額が記されたものを含む)
▶ 資金の借入れがある場合は借入れの残高を証する書類
▶ 預金残高(管理費会計・修繕積立金会計)を証する書類
▶ 各種設備点検報告書、工事報告書
▶ 保険契約等を証する書類
▶ 管理委託契約書(当期に該当する契約書)
▶ その他必要と認める資料
年度終了後に行う監査において、これらの資料が必要になります。管理会社に管理を委託しているマンションでは、管理会社が用意するのが一般的です。
中には管理会社が準備しないものがあります。その場合、監査を行う前に管理会社に依頼(確認)しておきましょう。
監査のチェックリストについて
一般社団法人マンション管理業協会が作成している監査チェックリストは、監査を行う上で参考になると思います。下にリンク先を貼っておきます。
監査の実情について
マンションの多くは、役員は持ち回りの輪番制、そして役職は公平性という観点からくじ引きなどで決めているのが実情かと存じます。そこで監事に当たり、管理会社に仕事内容を確認してみると、前述のように年1回の監査を行ってもらうだけなので楽な役職ですよ。そんな軽率で中身の欠けた回答が管理会社から返ってきたりもします。
監事の仕事で大変なのは、会計書類を渡され、それを監査する業務です。会計書類を渡されてもそう簡単にチェックできる人はいません。企業の経理に携わっている方でも、管理組合会計を直ぐに理解することは困難だと思います。
また、もうひとつの管理組合の業務の執行状況のチェックする業務監査についても、何をどうやってチェックすれば良いのか分かりませんよね。
何の道しるべもない、教えの場もない状況下で形式的に監査は行われているのが実情です。結果として監査報告書に署名捺印するだけになってる感は否めません。
これは監事になられた方が悪いのではなく、マンション管理の在り方に問題があるように思えます。
私の管理会社時代に、監事になられた方へ「監査の手順書」という冊子を渡していました。何の道しるべもないのでこの冊子は私が作りました。監事の仕事内容、監査の手順、これまで監事になられた方の質問などをまとめた冊子です。意外と好評でしたよ。調子に乗って更新し続けたら、気付けば分厚い冊子になっていました(笑)。
管理組合でこの冊子というのを作成してみるのも理解を深める上で必要なことだと思います。管理会社に依頼すればある程度の資料は無料で作成してくれると思います。
これは監事だけの話ではありません。仕事内容が分からないのは、理事長、副理事長、会計担当理事も同じです。輪番制を採用しているマンションでは、管理組合の役員の業務内容を記したマニュアル(手順書)を作成し、役員交代時の引継書として活用すれば、少しは不安が拭えると思います。
また、管理組合の決算報告書の中身について、詳しく解説した記事がありますので読んでいただけると幸甚です。👇
▶ マンション管理組合会計|これを読めば決算報告書のことが分かる!