マンションの管理組合役員には、理事長、副理事長、会計担当理事、監事の大きく4つの役職があります。
管理組合の役員の順番が回ってきて、一般的にくじ引きなどによって役職が決められていると思います。そこで初めて会計担当理事になられた方は、「会計担当ってどんな仕事をするのだろう」、きっとこの疑問を抱かれるのではないでしょうか。
会計担当理事の職務については、それぞれのマンションの管理規約にその内容が記されていると思いますが、大雑把な内容しか記されていません。
国土交通省が作成している「マンション標準管理規約」に会計担当理事の職内容が記されていますが、この記載内容も抽象的すぎて理解に苦しみます。
マンション標準管理規約第40条/理事
3 会計担当理事は、管理費等の収納、保管、運用、支出等の会計業務を行う。
ほとんどのマンションがこのような記述になっていると思います。きっとこの規約を読まれた方の多くは、このように感じるでしょう。
この規約に書かれている職務は、自主的に管理を行うことを前提とした規定になっています。多くの管理組合はマンション管理の全部または一部を管理会社に委託しています。
なので、この委託業務の中にこの会計業務が含まれているから、ここに記された会計業務のほとんどは委託先の管理会社が代行してくれます。
そこで一安心と思いきや、再び疑問にぶち当たります。
会計担当理事ってやることがないのでは?
会計担当理事の役割について
管理組合会計の中身を知ることで、会計担当理事が何をなすべきか、そこを理解することができます。なので、それぞれの会計業務の中身、そして会計理事担当の役割について見てみましょう。
分別管理方式について
管理会社が会計業務を行う場合、まず分別管理方式について理解する必要があります。この分別管理方式には「イ」「ロ」「ハ」の3つの方式があって、どの方式になっているのかは、管理委託契約を締結する前に管理会社から交付される重要事項説明書にそれが記されています。
以前は、「原則方式」「収納代行方式」「支払一任代行方式」の3つの方式が用いられていましたが、マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則の一部改正に伴い、「イ」「ロ」「ハ」の3つの方式へと変わりました。
この改定の趣旨は、管理会社が管理組合から委託を受けて行う出納業務において、一部の管理会社の横領事件などにより管理組合の財産が損なわれる事態が発生し、これを回避する目的がそこにあります。
なので、会計担当理事の役割として、この改定の意義を知り、お金の流れを知ることが重要です。これは管理会社のみならず、管理組合の印鑑を所持する理事長とか理事の横領の抑止にも繋がります。
この改定の詳細については、国土交通省が作成している「改定内容説明資料」、こちらを読んでその内容を理解してください。
イとロの方式の場合、管理会社は「収納口座」の通帳や印鑑の保管が認められる。ただし、イの方式については、修繕積立金と管理費用に充当する金銭の合計額の1か月分以上を保証する保証契約が必要になり、ロの方式については、管理費用に充当する金銭の1か月以上を保証する保証契約が必要になる。イとロの方式の「保管口座」、ハの方式の「収納・保管口座」に関わる印鑑については、管理会社は保管することができない。前述の保証契約は、マンションの管理の適正化の推進に関する法律第95条第3項に規定される指定法人(一般社団法人マンション管理業協会)が管理費等保証制度に基づく保証業務を行っており、一般的にこの保証契約が用いられている。
管理費等の収納、未納者への督促業務
区分所有者が支払う毎月の管理費、修繕積立金など(以下「管理費等」)が指定期日までに管理組合の口座に入金がなされているかチェックが必要になります。
マンションの多くは口座振替を利用していますが、中には振込みしか行っていない管理組合もあります。
口座振替の場合、収納代行会社(集金代行会社ともいう)が区分所有者の指定する口座から管理費等を引き落とし、所定の日数を経て管理組合の口座に一括入金されます。この一括入金の内訳明細書(口座振替結果報告書)を見れば、入金、未納を把握することができます。
この内訳明細書により、管理費等の引き落としがなされていない未納者に対して督促業務を行います。振込みによる場合は、通帳記帳により指定期日までに入金のない未納者に対して督促を行うことになります。
督促業務には、書面通知(書面督促)、電話督促、訪問督促などがありますが、状況に応じて、内容証明郵便(配達証明書付)、支払計画書の提出の要求、支払督促・少額訴訟などの法的措置を講じることになります。
管理会社に管理を委託している場合、管理委託契約の中に管理会社が行う督促業務の内容が記されています。
国土交通省が行政指導の指針として作成している「マンション標準管理委託契約書」には、管理会社が行う督促業務について以下の内容が記されています。
管理費等滞納者に対する督促
一 毎月、甲(管理組合)の組合員の管理費等の滞納状況を、甲(管理組合)に報告する。
二 甲(管理組合)の組合員が管理費等を滞納したときは、最初の支払期限から起算して○月の間、電話若しくは自宅訪問又は督促状の方法により、その支払の督促を行う。
三 二の方法により督促しても甲の組合員がなお滞納管理費等を支払わないときは、乙(管理会社)はその業務を終了する。
ここで注意すべき点がいくつかあります。
一の滞納状況の報告については、毎月管理組合に提出される月次報告書にその内容が記されていますが、この報告書が会計担当理事の手元に届くのは、その月の末日頃になります。なので、当月分の入金、未納の結果は、月末でないと知り得ないということです。
その期間、管理会社は督促業務を行っているわけですが、その督促の結果がその報告書に記されます。極端な話、管理会社が督促業務を疎かにしていれば未納者は増えるでしょうし、逆に適切にそれを行っているのであれば未納者は減るでしょう。ここで重要なのは、会計担当理事のみならず理事会が滞納状況の把握に努め、管理会社の協力を得て督促業務を行うという姿勢が大事です。
督促業務というのは最初が肝心であり、滞納の多くは初期段階で防げます。
管理会社が行う督促業務には期間(上記の二)が定められています。なので、期間終了後は理事会が行うことになります(上記の三)。そこに注意が必要です。
管理組合によっては、毎月理事会を開催して、そこで滞納状況を把握し、理事会一丸となって滞納問題に取り組んでいる理事会もあります。それが理事会の本来あるべき姿だと思いますし、それを先導するのが会計担当理事の役割とも言えます。
通帳・印鑑の保管
共有財産を管理する上で、通帳と印鑑の保管は、同一者が保管することは望ましくありません。なので、一般的には理事になられた方がいずれかを保管しています。敢えて「望ましくない」という表現にしているのは、管理組合内において、通帳と印鑑の同時保管を禁止する法的な規制がないからです。
一方、管理会社に管理を委託している場合は、前述の分別管理方式のおさらいになりますが、マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則により、管理組合の「保管口座」「収納・保管口座」に関わる印鑑、キャッシュカードは管理会社は保管できません。(一般的に管理組合口座においては、キャッシュカードは作成しない。)
ただし、収納口座については、所定の保証契約を締結することを条件に通帳と印鑑の同時保管が認められています。
一般的に印鑑は、理事長または会計担当理事のいずれかが保管しています。
管理組合の経費の支払い
共用部分の電気料金、水道料金、設備点検費などの経費の支払いについては、それぞれの契約条件に従って各業者に支払います。
収納口座に入金されている管理費用の残高は、1か月以内に保管口座へ移し換えます(前述参照)。
管理会社が印鑑を所持していない管理組合の口座から出金を要する場合は、出金依頼書(払戻し請求書)が管理会社から送られてきます。その際に出金の目的と金額のチェックは厳重に行う必要があります。移し換えの場合は、入金票の金額などのチェックも必要になります。
小口現金の管理
小口現金は、管理組合で使用するコピー代、ファイル代、共用部分の管球代、管理組合用のプリンターがあれば、そのインク代など急な出費のために用意する現金のことを指します。
この小口現金は、現金出納帳を用いて管理を行います。この管理は会計担当理事の職務と言えます。
会計資料の作成・保管
管理組合が作成するものとして、収支予算書の素案、収支決算書の素案、組合員別管理費等負担額一覧表などがあります。また、保管するものとして見積書、請求書、領収証などの証憑類があります。
管理会社に会計業務を委託している場合、これらの資料は管理会社が作成し、証憑類は期毎に一冊のファイルに纏めてくれます。これらの書類の内容の把握とか中身のチェックは欠かせません。
そうは言っても、多くの方が会計には慣れていないから、把握、中身のチェックと言われてもきっと躊躇するでしょう。分からないことがあれば、管理会社に確認したり、ネットで学ぶしか手立てはありません。とにかく頑張りましょう!
<参考記事>