マンションデべロッパー(分譲会社)はただの物売りである。私がマンションデべロッパー時代に身をもって知り得たことだ。
どんな商売も物売りであってはならない。なぜなら、物の価値を売ることが商売の真髄だからである。
マンションデべロッパーは住まいを提供するのが仕事である。しかしながら、そこには売上重視、早期完売という固定観念に縛られ、購入者の目的となる「入居後の快適な暮らし」、これが軽視されている。
はっきり言えば、「ただ売ればいい」で終わっているということだ。
快適な暮らしではなく、ただ売れるものを作るに着眼している。だから様々なトラブルがその後に起こる。
ここまで書くのには、理由がある。
利用されていない設備の数々
マンションのパンフレット、宣伝用の広告には、色んな住戸設備、共用施設、コンシェルジュサービスなどが記載されている。ホテル並みの設備とサービス、そんな謳い文句に踊らされてマンションを購入される方も少なくない。
だがしかし、どれだけそれが有意義に利用されているのだろうか。
マンションの中には、フィットネスルーム、シアタールーム、コミュニティルーム、キッズルーム、キッズプール、ゲストルーム、バーベキューガーデン、フラワーガーデン、噴水設備、介護サービス、クリーニングサービス、託児所、小売商店などが存在する。
実際のところ、運営にお金が掛かるから廃止、子供のいたずらで立入禁止、開店休業が多いのではないかだろうか。
実際に使われているのは、管理組合の会合で利用するコミュニティルーム(集会室)くらいであろう。
過剰な設備はマンションを売るためのただの道具
昭和期は、住宅供給が不足していたから、余計な設備を付帯せずともマンションを作れば売れる時代であった。
近年は住宅が供給過多となり、色んな付加価値を取り入れないとマンション、戸建住宅は売れなくなった。
供給過剰な時代だからマンションデべロッパーは、賃貸住宅の住人から購入者を囲い込む作戦に乗り出したのだ。賃貸住宅よりも良いものを作る、それが過剰な設備ということになる。
他社のデべロッパーが付ければ、当社もそれを取り入れる。こうして過剰な設備が生まれる。そこに「快適な暮らしを真剣に考える」という購入者側の視点は感じられない。
このような過剰な設備は、マンションを売るためのただの道具に過ぎない。
困惑を生む過剰な設備
当初において、マンションに利用価値の少ない共用施設が設けられると管理組合が困惑する。
少なからず利用者がいれば簡単に排除できるものではない。だから管理組合は悩む。意見の食い違いが生じれば、誰もが嫌な気持ちになる。
管理組合の話し合いで物事を決めるというのは容易ではない。マンションデべロッパーは、少なからずそのことは知っているはずだ。
それでも、その先を見据えないモノづくりを未だに続けている。「釣った魚にエサはやらない」とはまさしくこのことである。