名簿は既に作成されている
マンション入居前に提出する書類の中に「組合員届」「入居届」「第三者使用届」というものがあります。
マンション毎にその名称は異なりますが、誰が区分所有者で誰が住まれるのかを把握する上で必要な書類になります。(区分所有者=管理組合の組合員)
マンション購入時においては、手続き書類が多いので、あまり気にせずにこれらの届出書を分譲会社(販売・仲介業者)に提出されたと察します。
新築マンションの場合、分譲会社から管理会社に届出書などの重要書類が引き渡され、そこで管理会社は、届出書を基に「組合員名簿」「居住者名簿」を作成します。なので、この段階で既に名簿というのは作成されています。
名簿の目的と更新事情
これらの名簿は、管理組合の総会資料などの送付や緊急時の連絡や管理費等の請求などに用いるので、常に最新なものでなければなりません。
しかしながら、連絡先が変わっても管理組合に届け出ない方が意外といらっしゃいますし、管理組合が定期的に名簿の更新を行うケースは少ないと思います。
管理会社もまた、変更の連絡がなければ知る由もないわけで、そうなると実情とは異った名簿のまま、トラブルが起きてそこでようやく気付く始末。これは分譲マンションに限らず、賃貸の集合住宅にも言えることです。
届出事項に変更があった場合は必ず管理組合に届け出ること、この周知は欠かせませんし、名簿の必要性を理解してもらうことも重要です。
例えば、毎年開催される通常総会の出欠票の裏面に緊急連絡先の記入欄を設け、そこに記入してもらうとか、届出事項に変更があった場合は必ず管理組合へ届け出る旨の周知文を総会資料に追記するとか、掲示板を活用するとか、何らかの対策は必要です。
名簿の作成者は誰?
名簿を作成するのは管理会社ではなく、本来なら管理組合の理事長が作成しなければなりません。国土交通省が標準モデルとして作成したマンション標準管理規約に、以下の規定が置かれています。
マンション標準管理規約第64条(帳票類等の作成、保管)
理事長は、会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿及びその他の帳票類を作成して保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。
当初の名簿の作成は、前述のとおり管理会社が行いますが、あくまで管理組合の理事長が選任されるまでの期間に限られます。売買契約時の書類の中に「管理に関する承認書」、名称は異なるかも知れませんが、その中に管理会社の限定的な権限(条件)が記されています。
なので、理事長になられた方は、こうした職務があることは知っておく必要があります。
管理会社の名簿と化す?
管理組合の各届出書は、管理会社が独自に作成したものです。中には勤務先の記入欄があったり、生年月日(年齢)の記入欄があったりもします。
その良し悪しは抜きにして、全て管理会社の手によって作られたもの、そこに何の疑いもなく従っていることに少し違和感を覚えます。
その情報を何の目的で入手し、どのように役立てるのか、そして誰がその情報を利用するのか、そこが重要です。
管理会社が届出書を作成し、管理会社がその届出書を受理し、そして名簿を作成し、マンション管理業務を行うために利用しているに過ぎません。
管理会社のための名簿になっている…
管理組合の情報なのに自分たちは知らない…
管理組合にとって重要な情報にも関わらず、そこには管理組合は存在していないように思えます。私はそこに疑問を抱かずにはいられません。
名簿の保管者は誰?
前述のマンション標準管理規約には、理事長が名簿を保管するように記されていますが、実務として理事長が名簿を保管されていますか?
私の管理会社時代に理事長が名簿を保管することに対して疑義を唱える方がいらっしゃいました。「理事長が毎年代わるので名簿を預けるのは反対!」「管理会社で保管してもらう方法で良くないですか?」…
こうした疑義が生じると、管理会社だけが名簿を保管することになってしまい、前述の「管理会社の名簿と化す」に至ります。
緊急時の対応は大丈夫?
火災や水漏れなどの緊急時に連絡先などの個人情報は必要になります。管理会社が対応するから大丈夫、果たしてそうでしょうか?
大地震が起きたときに管理会社も被災者になり得ます。そこで迅速な対応を期待できるでしょうか。理事長に連絡先を尋ねても分からない、誰一人知らないでは有事の際に困ります。
理事長が名簿を自宅に置くことにもし抵抗があるのなら、管理員室に鍵付きのキャビネットを置いてそこに保管するなど、有事の際に閲覧できる体制は最低でもとるべきです。
有事の際に管理会社に連絡が取れないことだって考えられますし、現地到着までにかなり時間がかかることだって…
なので、全て任せっぱなしは危険です。
名簿の作成及び運用の細則
管理組合によっては、各名簿の作成とその運用にあたり細則を設けているところがあります。こうした細則を設けることで、ルールに沿って作成または更新が行えますし、個人情報の取り扱いについても明文化されるので安心です。
2017年5月30日付で管理組合は個人情報取扱事業者となり、名簿の運用ルールは不可欠です。なので、名簿の作成と運用に関する細則は設けることが望まれます。
ちなみに私の住んでいるマンションでは、1年越しの2018年に細則を設け、そこに「災害時の住人の安否確認」を個人情報の利用目的に加えました。
名簿の作成と運用に関する注意点
名簿の作成と運用にあたっては、個人情報保護法に準じて、以下の点に注意が必要です。
1.名簿の目的を明確に
名簿を作成するときは「何の目的で使うのか」、利用目的を具体的に決めておく必要があります。居住者から利用目的を聞かれた場合、回答に困らないようにするためです。
2.運用上の注意点
個人情報にあたっては、特定した利用目的の範囲内でしか利用できないため、他の目的で利用する際は、予め本人の承諾が必要になります。こうした観点から利用目的の取り決めは必要だと言えます。
3.保管上の注意点
名簿を管理組合で保管する場合は、鍵付きのキャビネットに保管し、緊急時などの特定以外は閲覧しないといったルールが必要です。管理組合によっては、名簿を封筒の中に入れ、封印して保管しているところがあります。
また、名簿の閲覧について誰が行えるのか、明確なルール決めも必要になります。また、管理員室の鍵の保管者(所持者)についても取り決めが必要になります。
管理員室にパソコンがある場合は、個人情報の漏洩が生じないようにセキュリティ対策(ログインパスワードの設定、ウイルスセキュリティソフト導入など)は欠かせません。
4.個人情報の提供に関わる注意点
個人情報を本人以外の第三者に開示するときは、事前に本人の同意が必要になりますが、火災や水漏れなどの緊急時や人命に関わる場合など、状況によっては本人からの同意を得るのが困難なケースが考えられます。
こうした場合の対応についても運用ルールを定めておくと、より迅速な対応が行えます。
5.個人情報の開示に関わる注意点
本人から自分の個人情報の開示、訂正、削除を求められた場合は、それに応じなければなりませんが、そうした事案が発生した際に誰が対応するのか、管理会社に当該業務を委託する場合など、運用の取り決めは必要になります。
以上の大きく5つが注意点になりますが、管理組合によっては他にも注意すべきことがあるかも知れません。
名簿の作成と運用にあたってのルール決めは、かなり面倒に思えますが、個人情報の取り扱いに纏わるトラブルは意外と多く、そこで管理体制が問われたりします。これは管理会社に限ったことではなく、管理組合にも言えることです。
名簿の作成および運用に関する細則は、インターネット上に雛型が複数アップされているので参考になると思います。
また、昨年4月から始まったマンション管理計画認定制度の認定基準(その他の事項)の中に「管理組合がマンションの区分所有者等への平常時における連絡に加え、災害等の緊急時に迅速な対応を行うため、組合員名簿、居住者名簿を備えているとともに、1年に1回以上は内容の確認を行っていること」、が記されています。
なので、「早めの対策」と「最初の決め事」、この2つは大切です。