国土交通省の公表データによると、築40年超の分譲マンションは2018年末時点で、全国に約81万戸あり、全体の約1割を占めています。20年後には4.5倍の約367万戸に膨らむと推計されています。
皆さん、この数字を見てどのように感じますか?
先日、滋賀県野洲市にある築48年の廃墟となった分譲マンションの解体工事のニュースが、各メディアに取り上げられ大々的に報道されていました。
分譲マンションにおいて、空家対策特別措置法に基づく行政代執行で解体工事が開始されたのは全国初という内容でした。
行政代執行とは
国や自治体などの行政機関の命令に従わない人に対し、その本人に代わって行政機関側が強制的に撤去や排除を行い、その費用を後に本人から徴収する制度のことを「行政代執行」といいます。
空家対策特別措置法により全国の自治体で行政代執行が可能になり、特定空き家(そのまま放置すると倒壊の危険がある空き家)に認定されると、特定空き家の所有者に対して状況の改善が命令されます。
前述の滋賀県野洲市のマンションは、10年前から空き家のまま放置され、天井や外壁などが崩壊し、アスベストが付着した鉄柱と部屋内部がむき出しになっていました。
そこで同市は、2018年9月に特定空き家に認定し、9人の所有者などに自主解体を求めていましたが、全員の合意が得られなかったため解体に踏み切りました。
私はこのニュースを見て、築40年を超えるマンションがこれからどんどん増えていく中で、同時に廃墟マンションが増えることへの危機感を抱きました。実際に街中を歩いてみると廃墟になった一軒家やビルなどをよく見かけますし、廃墟マンションも少なからず存在します。
既に一軒家では、この行政代執行による解体工事が百件以上実施されています。この一軒家の廃墟で心配されるのが不審火・自然発火による火災、庭木の越境や雑草放置、不法侵入による治安の悪化、不法投棄、害虫・害獣・犬猫等が棲みつくことによる異臭・悪臭、そして景観上の悪化などの問題です。
一方、マンションの場合は、一軒家には無い特有の問題があります。特に通行量の多い歩道に面するマンションでは、老朽化による壁、タイル、庇の落下など、人命に関わる事故が心配されます。
実際にこうした事故は起きていますし、今後老朽化したマンションが増えることにより、そうしたリスクは高まります。冒頭の数字はそれを物語っているように思えます。
行政代執行により解体工事が行われた場合、後にこの費用を所有者に請求することになりますが、こうした廃墟マンションの場合、管理組合はまず機能していないでしょうし、修繕積立金は枯渇状態でしょうから、回収するのはとても難しいように思えます。
現実的に滋賀県のマンションでも区分所有者と連絡が取れないなど、困難さはそこから窺えますし、もし仮に連絡が取れたとしても、多額の費用をそこで支払えるのか、この問題が新たに浮上します。
マンションの解体費用は総戸数にもよりますが、一住戸当り200万円から500万円程度掛かります。今後、解体工事の需要が増せば、人手不足などにより工事費用は高騰することが考えられます。
この支払金を巡るトラブルは、今後増えるものと思われますが、行政代執行による解体費用は一時的とはいえ税金が投入されます。そこで解体業者に支払いを待ってくれなんて言えませんしね。
ちなみに一軒家における解体費用の回収率は1割程度、かなり低い数字ですよね。自治体の回収努力も虚しく滞っているのが実情です。
問題のある廃墟の建物をそのまま放置するわけにはいきませんから、頭の痛い問題です。
後先考えずにこれまで多くのマンションを建設してきたその付けを、これから私たちは背負っていかなければなりません。そう考えると無関心ではいられません。