私が管理会社に勤めていたときの話になるのだが、大規模修繕について話し合うため、理事会が開催され、同席させてもらった。
開始早々に理事(中年男性A氏)から、このマンションに住んでいる高齢者のおばあちゃんの話が出た。
このマンションは6階建、総戸数24戸、そこに暮らす高齢者はそのおばあちゃんひとりだけである。
そのおばあちゃんは4階に住んでいるのだが、なぜかエレベーターは使用しない。いつも階段でのぼりおりをしている。
A氏がおばあちゃんに「階段はきついでしょ」と聞くと、「エレベーターは電気代がかかるから」と返事が返ってきた。
その階段には手すりがない。壁に手を寄せてゆっくりと下りる姿を見て不便に思えたそうだ。
そして理事会の席でA氏は「お願いがあるのですが、今回の工事で階段に手すりを設置してもらえないか」と嘆願された。
私はこの話を聞いて正直涙が出そうになり、とても優しい気持ちになれた。
他の理事さんたちも同じ気持ちだったようだ。反対者もなく、総会でも承認されたのだが、階段だけではなく、共用廊下、そして共用玄関口の階段にも手すりが設置された。
総会の席で若い男性B氏から出た言葉に再び感銘した。
「今困っている人がいるのなら、それがひとりだとしても手すりを設置してあげたい」
工事完了後しばらくしておばあちゃんから「ありがとうございます。助かります。」と書かれた手紙が管理組合宛てに届いた。
ひとりがみんなのために、みんながひとりのために…