マンションの大規模修繕において、施工会社から工事見積書を取り寄せても、管理組合内でその中身をチェックすることは決して容易ではない。
大規模修繕工事に精通された方でないと、工事見積書に記載された個々の金額とか工事内容について把握できないだろう。
私の経験で言えば、管理会社時代にそれを完全に知ることはできなかったし、その後の建設会社時代に現場を通じ、大規模修繕の工事見積書の中身について多くを知り得た。
管理組合の皆さんは、それとは無関係の職業に就かれていると思うし、失礼な言い方になってしまうが、ほとんどが素人になると思う。
なので、管理組合自身が見積書をチェックするのは、現実的に難しいことだと思う。
管理組合によっては、大規模修繕に精通しているコンサルタントなどの第三者に工事見積書のチェックを依頼されたり、また近年では、それを得意とするコンサルタントが増えている。
今回、この工事見積書のチェック(精査)について語りたい。
見積書の精査の目的
見積書の精査の目的は大きく2つある。ひとつは「金額の妥当性のチェック」、もうひとつは「工事品質のチェック」、いずれも粗悪な工事や安かろう悪かろうを未然に防いだり、割高な工事費を回避するためにある。
見積書の精査の基準
一般的に工事見積書には基準というものが設けられている。この工事見積書の基準の取り決めにあたっては、コンサルタントに依頼されるケースが多い。この基準というのは、大規模修繕を実施する上でとても重要な作業となる。
この基準に沿って、施工会社から見積書が提出されるわけだが、管理組合によっては、この見積書とは別に施工会社側の提案見積書を求めるケースも見られる。
多くの場合、各施工会社の見積書は未開封状態で管理組合に手渡される。業者間の談合を防ぐ目的がそこにある。また、コンサルタントの健全な立場をこれにより主張できる。
本来ならこの開封後にそれぞれの見積書の精査が十分に行われ、そこで見積書の不備を正したり、状況によっては当初の見積金額が変わることもあるだろう。
工事見積書というのは、工事項目が広範囲に及び、施工会社側の見積り担当者の裁量とか、それが人の手によって作られるから、意外とそこに勘違いや間違いがあったりもする。なので、最初に提出される見積書というのは、第三者の厳正なチェックというのは欠かせない。
この見積書の精査が工事を適正に実施するために行うものだとすれば、施工会社を決める前に不備を正す、個人的には当然の行為に思える。
「本来なら」という言葉を用いているのは、そうではないやり方が実情として存在しているから敢えてこの表現にしている。
施工会社を決める前に工事金額が変わるというのは、見方を変えれば、状況によっては見積操作ができることを意味する。いわゆる業者間の談合がそこにあったりもする。
それを嫌ってか、十分な精査がそこではなされず、そのまま施工会社の選定が行われたりもする。最初の見積書の一発勝負で業者選定を行うことを意味する。これは公共工事の入札と同じやり方になるのだが、一見すると正しいやり方のようにも思える。
公共の入札と違うところは、施工会社のプレゼンの時に値引き交渉が行われたり、値引きの提示があったり、また、施工会社の選定後に値引き交渉が行われたりもする。
精査というのは大切な作業だと理解できても、実際にどのタイミングで精査を行うのか、色んなしがらみがあるから、精査の本来の意義が失われているように思える。
ただ単に値引きすることが精査とは言えないだろう。
なので、そこは管理組合サイドで、見積書の精査の基準というものを設けることが必要ではないだろうか。「精査の基準」とは、誰がいつどのように行うのかである。
例えば、コンサルタント(誰)が、管理組合が見積書を受理した段階で(いつ)、十分な精査を行い、それぞれの見積書の問題点を整理して見解書に纏め(どのように)、管理組合に提出する。
この見解書を基に管理組合(理事会・修繕委員会)で話し合いが持たれる。
その話し合いの中で、施工会社を選考する前に工事見積書の再提出が生じたり、状況によっては施工会社を外すといった行為が生じたりもするだろう。ここで大切なのは、管理組合側の意思で物事を決めることにある。
前述の見解書というのは、精査の結果を知る上で管理組合にとって必要な書類になるのだが、実際に作成されるケースは少ない。
個人的に感じることは、不正の防止が前提に掲げられ、大切な精査が棚上げになっている、そこに疑念を抱いている。
公共工事を例にとるなら、実績作りで工事内容を十分把握せずに最低落札価格で入札に参加する建設会社もいるだろう。その場合、特に仕様がない場合、それに見合った工事しか行えないという現実がそこにあったりもする。
精査というのは前述の「安かろう悪かろう」を防ぐ目的がある。そこには適正価格、工事品質の見極めが必要になってくる。そのために精査というのは行われる。
見積書の一発勝負までの過程において、もし精査というものが抜けているとしたら、工事の仕上がりは期待できまい。
役所の公共工事とマンションの大規模修繕は、突き詰めれば全く性格が異なると思う。民間の場合、特に業者間の談合とか癒着という邪悪なものが存在するから、本来やるべきことが棚上げにされている感は否めない。
業者間の談合、癒着を阻止するためには、委託先のコンサルタントの倫理というものが問われるだろうし、不正の起きない仕組みを構築することが重要になるだろう。
近年において、冒頭で語った大規模修繕の工事見積書を精査するコンサルタントが増えているのだが、施工会社を1社に選定した後にその施工会社の見積金額や工事品質の良し悪しについて精査を行うというサービスになっている。
施工会社を1社に絞る前にこの精査が十分行われているのなら、不要なサービスに思えるが、実際には精査が十分に行われていないから、このサービスに利用価値という意義が存在すると思う。今の大規模修繕の盲点を突いたサービスに思えたりもする。
見積書の精査というものは重要なのだが、そこには色んな考え方が存在するだろう。