住戸内のキッチン、洗面台、浴室、洗濯機置場などに付設されている排水管は、経年により管内に汚れが付着する。そのまま放置すると排水不良や悪臭の原因となる。
その汚れを取り除くために行うのが排水管洗浄である。マンションによって実施頻度は異なるが、定期に実施しているマンションが多い。
排水管洗浄は、マンション全体で実施することが望まれる。なぜなら、各住戸の排水管(横引き管)は、共用の排水管(竪管)と繋がっているから、部分的にやってもその効果は期待できない。
住戸内の横引き管はその住戸の所有者がその管理を行い、共用の竪管は管理組合が行うことになるが、排水管は共に繋がっているから同時に実施した方が洗浄効果は高いし、コストを低く抑えることができる。
例えば、1つの住戸の横引き管を単独で洗浄する場合、洗浄業者に依頼すれば1万円以上は掛かる。これを全体で実施することにより半値で実施できる。しかも共用の竪管まで洗浄できるからメリットは大きいと言える。
しかしながら排水管洗浄は、消防設備点検のように法律で実施が義務化されていないため、あくまで任意となる。そこで、実施の是非や実施の周期について、管理組合で揉めたりもする。
最初から計画的に実施がなされているマンションでは、そんなに揉めることは少ないが、悪臭や排水不良の問題が浮上し、途中から実施するケースでは、合意形成を図るのは中々難しいのが実情である。
実施の必要性
冒頭でも語ったが、排水管は経年により管内に汚れが付着し閉塞する。主にキッチンから排出される油などが管内部で固形化する。
そのまま放置しておくと、水はけが悪くなり溢れ事故の原因となり得る。また、管内の悪臭が室内に漏れないように水廻りには封水(排水トラップ)が施されているが、排水不良の合図となるボコボコ音、これにより封水が一時的に機能しなくなり、室内に悪臭をもたらす。
封水とは、臭気などを遮断するために、排水管のトラップ部分に水を満たしておくこと。(下図参照)
なので、安全面、衛生面の観点から排水管洗浄は実施することが望まれる。
実施頻度は、2年毎に実施しているマンションが多く、ディスポーザーが設置されているマンションの場合、1年毎に実施している。これらは管理組合が発注者となり全体で行われている。
各家庭から排出される油などの量を減らせば、洗浄の周期は延ばせるわけだが、これを周知徹底させるのは難しい。
排水管洗浄における注意点
まず排水管の洗浄に使用される洗浄ホースについて、知っておいてほしいことがある。
ステンレス製で作られたワイヤーブレイドホースと言われるものだが、この金属のホース部分がヤスリ状になっている。
洗浄の際にヤスリ状の面の部分が管内を傷つけるのだ。ホースを抜き差しする際にエルボ(管曲がり)の部分が削られ、肉厚が薄くなる。実施が増すごとに削れていく、最悪穴が開けば漏水事故を引き起こす。
これらを防ぐために金属部分を塩ビ樹脂で被覆した洗浄ホースなどがある。
洗浄業者の多くがワイヤーブレイドホースを使用している。このホースの仕様については、業者を決める際に確認された方がいい。
汚水管と雨水管の洗浄はしないの?
排水管洗浄は、文字通り排水管の洗浄であって、汚水管と雨水管は対象外となる。私の管理会社時代に、どうして汚水管や雨水管は洗浄しないの?こんな質問が多く寄せられた。
排水管と違い、汚水管および雨水管は、管内に汚れが付着しにくいから一般的に洗浄は行われていない。
汚水管は、文字通り汚いイメージを持たれるが、管内をファイバースコープ(内視鏡)でのぞいてみると意外と汚れは付着していない。
一方の雨水管は、基本的に雨水しか流れないので、管内の汚れは生じにくい。
しかしながら、汚水管においては排水管と同様に悪臭のクレームが意外と多く、原因は尿石によるものだ。
尿石とは、尿の成分が固まって石化した状態を指し、経年により便器のみならず管内に付着することがある。その場合、特殊な洗剤を使って自分で清掃を行うことになるが、清掃方法については、ネット上にかなりの情報が掲載されているので、そちらを参考にしてほしい。
雨水管についても、ベランダやバルコニーに鉢植えを置かれる場合、水やりするときに出てくる土によって排水管が詰まることがある。それはバルコニーのみならず屋上に堆積した黄砂や落ち葉などが雨水管に流れ込み同様に排水管を詰まらせる。
特に建物から敷地内の雨水桝までの横引き管内に土が滞留し、それが詰まりの原因となる。この場合、雨水管の洗浄が必要になる。
また、雨水枡は、雨水管内を流れてくる土や砂、落ち葉などが直接下水に流れ込まないように、不要なものを沈澱させ取り除く役割を担うが、この桝に溜まった汚泥や落ち葉などは定期的に取り除く必要がある。
この雨水桝の汚泥がそのまま放置されているケースが意外と多い。
なので、定期的に点検を行い、溜まった汚泥を取り除く必要がある。ただし、この汚泥の処理方法については、市区町村に確認を要する。
元請者としての意義を問う
管理組合が管理会社に排水管洗浄を発注されるケースがある。また管理会社が洗浄業者を紹介するケースもある。
いずれも不透明なお金が上乗せされている事実を知っておいてほしい。
管理会社が元請者となって受注する場合、専門の洗浄業者に再委託している。管理組合が支払う料金には、管理会社のマージンが2割から4割上乗せされているのだ。
これを差し引くと洗浄業者の原価(実勢価格)が把握できよう。
管理会社のやることと言えば、管理組合から排水管洗浄を受注するための営業だけだ。受注後は、指定の洗浄業者に丸投げする。
排水管洗浄は在宅率が高い土日に実施されるケースが多いのだが、元請者の管理会社が現場に行くことは稀だ。全て業者任せにしているのが実情であろう。
掲示板の貼り紙、そして全戸に配布するお知らせ書面は洗浄業者が作成している。この書面の作成まで丸投げしている。
何もしない管理会社に対し、料金の2割から4割を支払っているのだ。
管理会社から洗浄業者を紹介するケースでは、裏ではリベートが発生している。この額も2割以上とデカい。
利益を出すことはマンション管理会社に限らず、どの企業も重要視されているのは理解し得るが、そこに相応の対価がなければ、ただの割高なサービスに終わってしまう。
そこにもし相応の価値がなければ、専門業者に直接発注するのが得策だと思う。ただし、専門業者の中にも良し悪しがあるので注意は必要である。
この専門業者に直接発注する場合、管理会社には管理委託契約上の業務補助の責務がある。
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排水管洗浄の請求金額には注意
マンションの排水管洗浄を全戸一斉に実施する際、すべての住戸が実施できるとは限らない。
洗浄業者によっては、未実施の住戸について、後日追加で洗浄を行うケースが見られるが、その辺の取り決めがどうなっているのか、事前に知っておく必要があろう。
最終的に全戸実施している場合は、見積金額=請求金額になるだろうが、未実施の住戸が存在した場合、実績ベースで精算される業者が中には存在する。
例えば、総戸数50戸のマンションの場合、実施された住戸が45戸であれば、5戸は未実施となる。この場合、5戸分に相当する洗浄代金を差し引いて請求する業者もいるし、未実施の住戸が存在しても当初の見積金額(全戸分)を請求する業者もいる。
マンションの排水管洗浄は、一般的に戸当りいくらで計算される。業者の見積もりの仕方によっては、どんぶりで一括計上されるケースも見受けられるが、実務的には戸当りいくらという単価になっている。
洗浄を行った住戸では、1年もしくは2年の保証が一般的に付けられているのだが、未実施住戸の場合、それがどのような取り扱いになるのか、業者によって考え方が異なったりもする。
前述の全戸分の金額を支払えば、未実施の住戸にも保証が付く、逆に実績ベースでの支払いになると未実施の住戸は保証の対象外など条件は業者毎に異なったりもする。このような条件の取り決めがなされないまま発注しているケースが多いのではないだろうか。
なので、排水管洗浄を発注する際は、支払条件、保証条件などの明確な取り決めが必要になってくる。
<追記>
近年、労働者不足等により、排水管洗浄の会社によっては、料金の値上げがなされたり、契約条件が厳しくなったりと多少の変化が見られる。なので、そこは知っておくべきことかも知れない。