マンションの管理運営を行う上で問題となるのが「管理費等の滞納」である。特に理事長、理事の方は、これから語る「管理費等の時効消滅」「法的手続き」に関する予備知識を持つ必要があろう。
督促業務の主体は管理組合
管理組合の多くは、管理委託契約に基づき管理費等の徴収をマンションの管理会社に依頼しているわけだが、全てを任せっぱなしにしている。
そこで管理費等の滞納が生じると管理会社を責めたり、督促をもっと強化すべき、そんな要求がなされたりもする。これが管理組合の常識的な考え方になっているように思える。
しかしながら管理会社は補助的な業務しか行えない。例えば、書面や電話、訪問などにより支払いが遅れている旨を知らせたり、そこで滞納の理由を聞きその旨を管理組合に伝達する、これが管理会社の補助的な役割と言える。
そこで支払いがなされない場合は、滞納者に対して内容証明郵便を発送したり、少額訴訟などの法的手続きを行えるのは管理組合(債権者)であり、弁護士の役割とも言える。
なので、管理会社の督促業務には限界があることをまず知るべきだと思う。
理事長を始め、理事が真剣にこの問題に取り組む、輪番で役員は代われども、この姿勢を継続していくことが管理費等の滞納問題の解決には欠かせない。
管理費等の滞納状況
管理組合の管理費等の滞納状況について、国土交通省が5年に一度行っているマンション総合調査(平成25年度)で統計データが公表されている。
滞納期間の区分 | 滞納者がいる管理組合の割合 |
3ヶ月以上の滞納がある管理組合 | 37.0% |
6ヶ月以上の滞納がある管理組合 | 22.7% |
1年以上の滞納がある管理組合 | 15.9% |
平成20年度の統計データと比較してみると、全ての項目において2%程度下がっている。このデータを見て気付かされることがある。滞納者ゼロという管理組合が実在していることだ。
3ヶ月以上の滞納を例とってみても6割の管理組合が滞納者がいないということが統計データから窺える。滞納者の複雑な個人事情があるにしても、この6割をどうみるか、滞納者のいる管理組合では、そこから学ぶべきことがあると思う。
管理費等の時効消滅
この時効消滅について、既に知っている方も多くいらっしゃると思うが、管理費等の時効は5年、平成16年4月23日の最高裁判決で判示され明確になった。
これにより管理費等は、民法169条の定額給付債権(毎月決まった方法で支払う債権)に該当するとして、5年の短期消滅時効が適用されることになる。
法的手続きについて
長期滞納者に対して、最終手段となるのが法的手続きである。そうならないためにも、初期段階の滞納督促は適正に行う必要がある。だが、これを行っても防げない滞納というのもある。
法的手続きの種類は大きく4つある。
法的手続きの種類 | 概要 |
少額訴訟 | 60万円以下の金銭の支払請求について利用できる訴訟制度。簡易裁判所で原則1回の審理で即日判決が得られる。手続きが比較的簡単なので管理組合自身で手続きを行うことも可能。勝訴判決を得たら強制執行を申し立てることができる。訴訟手数料は1,000円~6,000円、訴額によって異なる。他に予納郵券(3,000円~5,000円)が掛かる。管理組合ではこの手段を行うところが多い。 |
民事調停 | 民事調停は話し合いによる解決が重視される。裁判官と調停機関が中立的な立場に立って、双方の言い分を聞きながら和解に向けた解決を目指すという制度。調停が成立すると調停証書がもらえる。この証書は強制執行のできる確定判決と同様の効力があるから合意内容に違反した場合は強制執行へと進むことが可能。ただし、出頭義務がないから、欠席の場合は意味を持たない。 |
支払督促 | 請求金額にかかわらず、債務者(滞納者)の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対して申立を行う。裁判所書記官から、債務者に対する支払督促送達後、債務者からの異議申し立てがないまま2週間経過すれば、債権者(管理組合)は支払督促に仮執行宣言を付するよう申し立てることができる。裁判所書記官から、債務者に対し仮執行宣言付支払督促が送付され、債務者から2週間の不変期間内に異議が申し立てられなければ、確定判決と同様の効力を持つ。ただし、債務者から異議が出された場合は、通常の裁判に移行する。 |
通常訴訟 | 金銭の支払いを求める通常の訴訟(民事訴訟)による方法。訴額が140万までは簡易裁判所、140万円を越える場合は地方裁判所へ提訴することになる。この訴訟になると、弁護士、司法書士などの専門家へ依頼せざるを得えない。その際に相応の経費が掛かる。 |
これ以外にも、約束に違反した場合に強制執行ができる「公正証書」による方法などがある。この場合、当事者双方が公証人役場に出向く必要がある。
長期滞納者が競売に出されるケースも多い。その前に任意競売によって任意売却されるのが通例なのだが、次の特定承継人から未納管理費は徴収できる。だが、消滅時効があるから時効を中断させる対策は必ず行うべきだと思う。
私は弁護士ではないから細かく説明することはできないが、時効の中断方法については、弁護士の先生方のネット記事などを参考に勉強してほしい。
それと水道料、駐車場使用料の受益者負担金は、特定承継人から徴収できない場合も考えられる。裁判所に行けば、管理規約に明記されていなければ無効化されることがある。未収金が残らないように管理規約を整備することも課題となる。
管理会社に相談したところで、まともに助言できるフロント担当者は寡少である。持ち帰って調べて報告されるくらいなら、自分で調べた方がまだ早い(笑)。
管理費等の過去の判例など、管理組合も気になるところであろう。ネット上に無料で判例を閲覧できるサイトがある。下にリンクを貼っておく。
▶ 一般社団法人不動産適正取引機構|RETIO判例検索システム
<関連記事>